授業についていけなくなったとき

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アトランタにやってきて、もう2ヶ月ほどが経つところです。そろそろこちらでの暮らしが「日常」へと変化してきました。2ヶ月前まで日本にいたときのことがずっと昔のことのように感じられます。相変わらず英語でのコミュニケーションには苦労していますが、Hang in there! と自分に言い聞かせながら日々過ごしています。

さて、今日は、どんなときにアメリカの学生のやる気が削がれているように見えるか、ということについて記録したいと思います。そして、そこから、学習で躓いたときに、私たちはどうすべきか?ということにて考えを述べてみたいと思います。以前の記事で、アメリカの学生は自分の意見を発表するのが好き、どんどん手を挙げる、ということを報告しました。しかしもちろんそんな学生ばかりではありません。ある分野ではやる気に満ち溢れていて積極的になれるけど、違う分野では自信がなく消極的、ということは往々にして起こります。私がティーチング・アシスタントをしている日本語のクラスを例に説明します。

私がアシストしている日本語クラスは二種類あり、一つは一年生から三年生が履修するような完全初心者向けのクラス。もう一つは二年生から四年生が履修する、中級者向けのクラスです。日本の大学と同じで、外国語の単位が卒業要件に含まれているようです。特にSpelman Collegeでは初級クラスを修了したら中級クラスを履修し単位を取得する、全部で約二年間外国語を学習する形式のようです。

実用性を考えるならば、スペイン語が一番の選択肢、最近は中国語も人気なようです。しかしもちろん日本語は日本以外で使用される言語ではないので、実用性よりか、本当に日本文化に興味がある子たちが日本語を選択する傾向にあるようです。特にアニメや漫画が大人気で、日本語くらすにNARUTO、HUNTER×HUNTERや鬼滅の刃などのTシャツを着てきたりマスコットをリュックに付けてきたりする子も多いです。

 

というわけで、初めて日本語を学習する初級クラスの子たちは、概して日本文化に興味があって日本語を学ぶことにもやる気がある子が多いです。初級クラスではおはよう、こんにちはなどの簡単な挨拶の学習、ひらがな、カタカナの学習など簡単なパートから始めています。まだ簡単な部分なので、学生たちも理解が早くリラックスした様子です。テストや宿題の成績もかなり良く、日本語で自己紹介をする口頭試験でも順番を決めずとも進んでクラスメートの前で発表してくれました。以前から自分で日本語を勉強していて、ずば抜けて日本語が得意な子も数名いますが、平均的に理解のレベルが高く、遅れをとっている子はほぼいません。

対して、中級者クラスになると、かなり学生間にレベルの違いが見られます。一番よく理解している子たちは初級クラスからの積み重ねがちゃんとしていて、ひらがなやカタカナの読み書きにほぼ問題がありません。そのような子たちは授業に来る際にも余裕があってニコニコしています。宿題も必ずこなし、日本語の文章を声に出して読んでもらい、質問に答えてもらう口頭発表も難なくこなします。分からないところもすぐに質問してくれます。

しかし、理解に遅れをとっている子たちは、日本人が英語を学習する際に文法の違いや発音などに苦労するように、日本語の複雑なルールを自分の中に取り込むのに苦労することが多いようです。特にヨーロッパ圏の言葉と違い、日本語は独自の文字を持つのでそもそもひらがなカタカナを認識していないと読むことすら不可能です。初期の段階で躓いている子たちは、授業に来ていても、教室の後ろの方で黙っていたり、スマホやPCを見ていたりします。宿題の提出率や試験への取り組み方もあまり良くありません。

最初の方で躓くと、どんどん分からなくなる。授業についていけなくなる。先生が何を言っているか分からない。これでは、授業がつまらなくなり、意味を見出せなくなるのも当然でしょう。授業で聞こえてくる言葉は意味を持たない、単なる音や記号に過ぎなくなってしまうのですから。数人の学生は、もうすっかり絶望してしまって、時には不貞腐れてしまっているように見えます。

けれども、大学の授業では、決められたカリキュラム通りにきっちりと進めていく必要があります。このため、遅れをとった子たちを丁寧にすくいあげることはできません。もちろん、週に2回ほど、一対一で話ができるTutoring Hourというものは設けているのですが、それだけで追いつけるはずがありません。


きっと、この、勉強についていけなくなるまでの過程や絶望感、焦燥感のような感覚は世界中どこでも同じでしょう。日本の学校でも、難しい数学の初期の段階で躓いてしまうと、その後全ての数学の内容が分からなくなる。周りはどんどん先に行く。自分はテストを受けても何も分からない。授業を受けても、背景が頭の中に入っていないから何を言っているか分からず無意味に感じる。

このような状況でできるアドバイスはただひとつ。躓いた箇所まで戻ること。日本語を学ぶ例で言えば、ひらがなとカタカナの読み書きに問題があるなら、そこまで戻ってまずは一番簡単な部分をマスターすること。数学で言えば、基礎問題すら自分にとって意味をなさないなら、いくら周囲が難しいことをしていても、自分はその躓いた部分まで戻って学び直す。そうしなければ、今習っている内容に直面して、一ミリも分からず絶望して、の繰り返しです。

自分が今やるべき内容を全く理解できていないと認めることは、時に冷や汗をかくほど、もしかしたらそれ以上に辛いことかもしれません。けれども、現状を認め、他でもない「自分」が躓き始めた初期の段階まで戻って学び直さないと、前に進むことはない。中級日本語に躓く学生たちをみて、改めてそう思いました。

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